このように深く考慮したうえ、大いに教化指導を下し、改心の実があがったことを見とどければ厚くこれを恵み、改めない者は困窮が極まって他国に逃げ出すようになっても恵みを与えなかった。
まことにこれが世の中の実像なのですね。150年前もやはり価値観がゆがんだ人や地域を立て直すことは不可能だったのです。その後、開国から明治維新になって、暗くて冷たい人たちにも再びチャンスが巡ってきて、逆にいえば尊徳さんが取り組んだ仕法がなくても暮らせる世の中になったわけですが、いよいよ今回は尊徳さんの言うとおりになってきました。
本当の貧困とはすごいものです。中途半端に頑張るよりも、どん底に落ちて救われたほうが楽だという思いが人々に芽生えてきます。だから何を言ってもやっても立ち直らなくなります。そういう人を本当に変えることができるとすれば、ものすごく高い人間性を持って接することだけです。でもそういうチャンスに出会える人は本当に幸せです。世の中がさらに行き詰ってくると、どん底に落ちてた人を誰も救ってくれなくなります。お金も政府も頼りにならない世の中です。でもどん底に落ちても良き友がいれば人は這い上がってこれます。ということはここでもその人が良き友を持つことができる程度の価値観を持っているかどうかが問われてきます。
日本版投資銀行も基本的には尊徳さんのようにやらないとうまくいきません。尊徳さんは日本で最初に信用組合を創った人です。ほとんど貸し倒れということがなかったそうです。今でいえばマイクロクレジット、消費者金融、運転資金、設備資金、財政資金、実に様々な融資をやっていました。あの激しいデフレの江戸末期、何を基準にどう貸せば不良債権が出ないのか。まず第一に借り手の価値観。二つ目に借り手の仕事や生活を具体的に助ける知恵と経験。このあたりですね。
やはり武道館に日本中から人を集めてリーダーシップ研修から始めないと結局何をやってもうまくいきそうにないですね。あの研修はすごいのです。耳をふさいで帰っていく人と、嬉々として聞き入る人が分かれてきます。たとえばこれもそうです。とりあえず、嬉々とする人から先に新しい舞台に上がってもらうしかないですね。価値観が問われるリトマス試験紙みたいなものです。
まさに温故知新とはこのことですね。
藤原直哉 拝